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Publication: Fol:in paper Vol.1
Fol:in website
ディズニーランドから蔦屋書店まで
空間指揮者、コロナ空間の未来を語る
インタビュー・文 : イ・ウォンジェ 祥明大学 視覚デザイン課 教授
通訳:イ・スンミン リノベリングコリア 代表
「人はいつもオンラインで本を買うことができます。本屋で買った本と同じです。でも道で偶然に入ったお店で本と出会う経験は違う価値を持ちます。人が買うのはモノではありません。本屋に入って、本を探る過程を含めた経験(体験)、また、ストーリーを買うのです。」
今年は行けなかったのですが、去年まで毎年東京を訪ねていました。東京の新しい空間を見て、顧客の経験デザインについて考えるためです。東京では、いつも同じ場所で1日をまとめました。麻布十番と六本木の境目にある六本木 蔦屋書店です。六本木 蔦屋書店のスターバックスに席を取り、建築・都市・ファッション・旅行・デザインに関する雑誌を積んで、ホットチョコを飲んだりしていました。まちの人々の着こなしや行動を見ながらですね。東京のライフスタイルを一番凝縮された形で見られたのが私には、六本木の蔦屋書店でした。
その六本木 蔦屋書店が、今年の3月にリニューアルしました。新しくオープンしたお店に行けなくて残念だと思っていたところ、あるインスタグラムの写真が目に入りました。Culture Convenience Club (CCC) 組織の一つであるCCC creative の代表、谷川じゅんじのアカウントです。彼はJTQ という空間企画会社を経営しながら、NIKE、レクサス、GINZASIX などの有名ブランドの空間プロジェクトを担っている人物です。彼に唐突にメッセージを送りインタビューを提案したら、応じてくださいました。 メールでの書面インタビューとZoomを利用して、2回、長くお話させていただきました。 モニターの中から見えた彼は、グレーの髪色とは違う、好奇心に満ちた少年のような方でした。
• 新しくなった六本木 蔦屋書店に直接行けなくて残念です。
「少し説明しますね。六本木 蔦屋書店は、六本木エリアの特色と住人のライフスタイルを十分に反映してリニューアルしたと思います。お店のコンセプトは、「世界一の洋書店」です。データをもとに、六本木エリアの特性として「国際化」というキーワードを導き出しました。六本木には外資系企業や外資系ホテル、大使館が東京のどの街よりも多いです。実際にたくさんの外国人が行き来しています。なので、さまざまな海外の書籍や雑誌を備えました。外国人のお客様が子供と一緒に立ち寄った書店で母国語の本を見つけると、どんな気持ちになるでしょうか。週末ごとに家族と訪れる場所になると思います。このように細かい地域の特徴を認識し、空間を企画する必要があります。それが飽きない価値を与え続ける方法だと思います。」
•CCCグループの中でCCC Creativeの役割はどのようなものですか。
「CCC マーケティングホルディングスに所属した会社です。 私たちは、社会の変化をデータを通して見ています。その変化を反映した新たな価値を空間を介して実装します。CCCグループの様々な会社が担当している機能を連係して、新しいプロジェクトを行うことも私の仕事であります。」
• 社会の変化をデータを通して見るというのはどのような意味ですか。
「六本木エリアの特徴についての説明と同じようなことです。 CCCは蔦屋書店をはじめ、日本全域に1,200店舗を持っています。CCCの統合マイレージサービスのTポイントを利用する会員も7,000万人を超えます。このデータベースに基づいて、顧客のライフスタイルと地域的特性を分析します。 CCCマーケティングホルディングスは「ユニーク・データ、スモールハッピー(Unique Data、Small Happy)」という表現をしています。データベースをもとに、地域や個人の特性を読み取って、これをもとに細かい満足感を伝えなければならないでしょう。」
強烈な印象が長続きする記憶をつくる
• CCCの創業者である増田宗昭の<知的資本論>は韓国でも有名です。その本では、企画者とキュレーションをもとに、ライフスタイルを提案することがCCCのノウハウと書かれています。ところが、最近では、データベースの重要性が強調されているのですか。
「人間中心のキュレーションが重要である哲学は変わりません。しかし、オンラインベースのビジネスが発展し、また、オンライン及びオフラインの連携もますます重要になったのです。人間中心のキュレーション、これをベースとした企画は維持しながら、データで根拠を補完していると理解していただければと思います。個人的には、直感に依存した人の企画力も、結局、その人の頭の中のデータによるものと考えています。」
• 2002年からスペース企画コンサルティング会社JTQを運営されています。ご自身を「Space Composer」として定義されているのが印象的でした。
「人生は記憶の連続だと思います。時間が経つと消える記憶もありますが、決して忘れられない記憶もあります。私はどれくらい強い印象を与えられるかによって、記憶の持続性が決まると思います。空間を企画することは、空間の中にいる人々がどのような印象を受けるかを指揮することです。どのように空間を演出すると、より強く象徴的な印象を与えることができるかを常に考えています。」
• このような空間企画の哲学をどこで学ばれたのか気になります。大学では、建築を勉強されましたか。
「大学では、国文学専攻でした。本が大好きでした。最初に就職したのは、テーマパーク、ディズニーランドでしたが、ここではホスピタリティについて学びました。大きい空間に集まった人々とどのように楽しさを共有できるかを知りました。 3年間働きながら、空間のソフトウェアの作り方を学んだと思います。その後は、建設会社に移り、12年の間にコンベンションホールやイベントスペースなどを作る仕事をしました。ここで空間企画のハードウェアについて学びました。」
• JTQでは、有名なブランドとのコラボレーションプロジェクトを続けていますが、どのような競争力を持ち、ポートフォリオを作ることができましたか。
「最初にJTQを設立した時のアプローチは、今の仕事とは少し違いました。外から見ると空間を作りたい施主(クライアント)とデザイナー、施工会社の間で、最適解を探してくれる人が必要だと思いました。空間を企画するとき、デザイナーはいつも最高のデザインを求め、コストが上がる提案をするようになり、施工会社は、コストを下げてプロジェクトを進めることに重点をおきます。そして、クライアントは、その間でどのように最適の答えを見つけ出すか右往左往するようになります。なので、最初は、現場側に立ち、クライアントの
悩みを解決するために調整する仕事をしました。徐々にクライアントの立場から空間のビジョンとコンセプト、そしてビジネスモデルの設計について考える仕事が多くなりました。今は、空間をベースに事業全体を企画し提案する仕事が主となっています。」
ディズニーランドで空間企画のコンセプトを学ぶ
• 空間のコンセプトを企画することがJTQのコアですね。
「私がディズニーランドで学んだのがそれです。空間を企画するとき、大きいコンセプトが非常に大事であることです。テーマパークのような集客ビジネスは、多くの人々が同時に働いています。彼らが同じ哲学を持ちサービスを提供することで、空間も一つのコンセプトを持つことができます。有名な例として、リッツカールトンホテルの、お客様と接する3つの原則を明示したクレド(Credo 及び信条)のようなものも同じです。大きなスペースで多くの従業員が、均質なサービスを提供するためには、哲学が非常に重要であり、これを従業員がきちんと認識し 、各々の状況にあったサービスを提供できるように動機を与えて原則を伝達し、教育をする必要があります。これ新人 の時に ディズニーランドで非常に高いレベルで学ぶことができました。」
• 空間企画者としての感覚を維持できるノウハウはなんでしょうか。空間企画者としての感覚を維持できるノウハウはなんでしょうか。
「私は必ず現場に行きます。今は何もない場所でも、過去に行ったことがある場所でも、必ず現場に行きます。そこで何もせずにうろうろしています。それとともに、その場所のエネルギーを感じ、私がつくるべき空間について想像します。浮かんだアイデアがどのように実装されるかを頭の中で 検証したりもします。空を見たり、空気を吸いながら見えないものを感じとるようにします。私には一種の儀式です。 」
•5月にコロナ前と後の社会の変化を説明したマインドマップを作成されました。
「私が注目した最大のトレンドは、自由から安全への変化です。今までは広い場所を作って、多くの人々を集めることが空間ビジネスの成長方式でした。今後は空間を時間に応じて分け、危険を回避することが予想されます。お客様の安全を担保できる方向に空間ビジネスの軸がゆっくり変わることでしょう。」
コロナ禍でもオフラインの価値は続く
• コロナ禍にもかかわらず、人々が空間で出会い、価値をシェアすることは変わらず続くだろうと思われていますか。
「もちろんです。オフラインでしか感じられ ない 価値があります。例えば、蔦屋書店を見てみましょう。人々はいつでもオンラインで本を買うことができます。本屋で買ったものとまったく同じものです。しかし、偶然立ち寄った書店で本と出会う経験は、違う価値を与えます。人が買うのはものではありません。書店を入り見回す過程を含む経験、そしてストーリーを買うのです。技術が進化しても変わらず、人々は、この経験とスト ーリーを求め続けると思います。お店で買った野菜と直接育て収穫した野菜を食べるときの経験と価値が違うのと同じです。」
谷川氏はこのように話しました。「経験と感覚中心の空間企画の世界にデータ化の波が訪れるでしょう。現実の鮮やかな体験をデジタルと繋げるプロジェクトについて考えています。」ビデオ会議で話し合った私たちは、「近い将来、六本木 蔦屋書店でお会いしたい」と、挨拶を交わして別れました。
彼との次の出会いはどのような形になるでしょうか。コロナ時代に未来予測とは不可能ですが、一つだけは確信しました。彼は、 顧客の経験を誰よりも真剣に考える人であり、空間ビジネスの新しい突破口を見つけていくであろうということです。